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『逆たまごかけごはん』歌詞

ジャケット

1. 逆たまごかけごはん

割れたたまごがもとには戻らないように、
大人はもう子どもに戻れないらしい。
たまごを割りながら誕生日を数えて、
ひとりで勝手に苦しくなってるだけかもしれないけど。

ぼくの身体も、ぼくの心も、
不可逆的な成長に屈したくはない。
割れないことも割れることもできる、
完璧な殻の中で生きていたい。

たまごとご飯をぐるぐると混ぜて、
均一なパステルカラーにしよう。
目にはやさしいけどなんとなく退屈で、
それからちょっとだけグロテスクな気がしたんだ。

ぼくの身体も、ぼくの心も、
ぼくだけのものであってほしくて。
標準的であまりにも平凡な、
おなじ顔の大人になんてなりたくない。

たまごかけごはんを逆回しする、
みたいに大人も巻き戻せたらいいのにな。
ばらばらになったたまごの殻ひとつずつ、
目と鼻を描きこみながら考えていた。

(2022年10月; aki47)

2. セカンドハンド・ラブストーリー

「すき」とか「愛してる」とか
「ずっと一緒にいたい」なんて、
ばかみたいって笑わずに、
言えたらどんなによかっただろう。
どんなラブソングでも、
誰かが歌ったことがあって、
なんだか醒めちゃうんだ。

ひとと同じことばとか、ひとと同じ感情が、
なんだか格好悪いって、気持ちがぼくの邪魔をする!

セカンドハンド・ラブストーリー、
どうせ誰かの劣化コピー。
ぼくがいくら歌ったって、
ぼくの言葉、ぼくの言葉じゃないんだ!

ひとのことばを真似しちゃって、
他人の動きを盗んじゃって、
ひとの気持ちまで模倣しちゃって、 格好悪いよな。

あんなに憧れていた、
きみが恋を始めたとたんに、
ありきたりなことしか
言えなくなったのを覚えている。
どんなに幸せだって、
そんな歌しか歌えなくなるなら
恋なんてしたくない!
そう思っちゃうんだ。

ひとと同じになることが、
大人になることなら、
恋愛とか好意とか、
大人になるのとおなじなんだ!

セカンドハンド・ラブストーリー、
どうせ誰かの劣化コピー。
きみがいくら歌ったって、
きみの言葉、きみの言葉じゃないんだ!

自分のことばを消してしまって、
自分の身体も忘れちゃって、
自分の気持ちも殺しちゃって、
格好悪いよな。

そもそもきみが今恋人に言ってることばって、半年くらい前に
ぼくに言ってくれたことばと全くおなじなんだけど、
気付かないかな?
そうだよね、忘れてるよね。
そんなことで恨みはしないけど、
きみのことばが好きだったんだ。
誰かのことばの真似でもよくて。
それでもおなじことばを誰かに
言ってもらいたくはなかったかな。
気持ちはすごくよく分かるけどさ。
ぼくだけの特別な歌なんだって信じてたから、
がっかりしても許してほしい。
それくらいは言わせてよ!

セカンドハンド・ラブストーリー、
どうせ誰かの劣化コピー。
ぼくがいくら歌ったって、
ぼくの言葉、ぼくの言葉じゃないんだ!

自分のことばを消してしまって、
自分の身体も忘れちゃって、
自分の気持ちも殺しちゃって、
格好悪いよな。

(2022年12月; aki51)

3. 蝉みたいに不器用で。

日に焼けたアスファルトのにおいと、
目を焼くような黄緑色が、
ぼくに季節を思い出させたんだ。
耳に残る蝉のじりりと、
自転車のサドル照らす太陽は、
まぎれもない夏のシンボル。

蝉と蝉の死体って、おんなじ季節の季語なんだって、
きみが教えてくれたんだっけ?
苦しいねつらいねって真面目そうに呟いてみせるきみが、
なんだか可笑しかったな。だって、

蝉みたいに不器用で、
蝉みたいに向こう見ずで、
蝉みたいにちょっとしか
生きられなさそうなきみが、
そんなこと言うなんてさ。

きみみたいな無粋なやつに
そんな言葉は似合わないなんてさ、
けっして思っちゃいないんだ。だけど
苦しいねつらいねって、
本当に思ってるのは僕だって
言いかけた、口をつぐんだ。

感情のたとえとか、
季節感の添え物に
きみがなっちゃうのが怖くて、
どうしようもないんだ。
こんなこと、笑われるかな。

蝉みたいに不器用で、
蝉みたいに向こう見ずで、
蝉みたいにちょっとしか
生きられなさそうなきみが、
そんなこと言うなんてさ。

(2022年9月; aki44)

4. 夜

きらきらした街を、
ちょっとだけ外れてみたくて。
空っぽのショーウィンドウを
こっそりと覗いてみたんだ。

静かな箱の中は
誰の痕跡もなくて、
ぼくの眼だけが転がって。
見つめ返されてるような、
冷ややかな夜のまなざしに。

ひとりで寂しいのも、
そこまで悪くはなくて。
薄暗い夜の視線を、
こっそりと、ひとりじめにして。

静かな箱の中は
誰の痕跡もなくて、
ぼくの眼だけが転がって。
見つめ返されてるような、
冷ややかな夜のまなざしに。

(2022年3月; aki42)

5. 忘却概論

ひとの名前は覚えない。
覚えたって忘れちゃうから。
ぼくの名前を知っている、
きみの名前を思い出せなくて。

1ピクセルでも、1ビットでも、
覚えてたいのは、わがままですか?

記憶が走っていっちゃうから、
記憶がぼくを置いてくから、
ペンを持ったその姿勢で、
ぼくは固まっちゃうんだってば。

覚えてたいことばかりを、
都合よく忘れちゃうから、
今日もぼくは安らかに
眠れる、というわけなんです。

きみの名前を覚えたい。
覚えたって忘れちゃうけどさ。
ぼくがどれだけ覚えても、
忘れちゃうのがとても悔しくて。

1フレーズでも、ひとことだけでも、
覚えてたいのがわがままなんて、言わないで!

記憶が走っていっちゃうから、
記憶がぼくを置いてくから、もう、
きみを探し続けなきゃいけなくて。

覚えてたいことばかりを、
都合よく忘れちゃう前に、
この曲を終わらせなきゃいけなくて。
戻ってきてほしい。

(2021年7月; aki36)

6. サイダーブルー

詩を書くのは得意じゃなくて、
描いた景色は好きになれない。
初心者マークを手放せないまま、
空を見上げた。

サイダーみたいな空は、
きみの心みたいに青くて、
泡の舟ひとつ選びだして、
漕ぎだしたいような。でも、

サイダーみたいな空は、
きみの心みたいにつめたくて、
沈むぼくを、感じる前に、
コップの底に、消えた。

才能には恵まれなくて、
うまく言えないことばかりで、
初心者マークを手放せないまま、
空を、見上げても。

サイダーみたいな空は、
きみの心みたいに青くて、
泡の舟ひとつ選びだして、
漕ぎだしたいような。でも、

サイダーみたいな空は、
きみの心みたいにつめたくて、
沈むぼくを、感じる前に、
コップの底に、消えたんだ。

(2021年4月; aki32)

7. エリアメール変奏曲

ああ、聞こえない、しどけない、
ぼくの声じゃ、届かない、動かない、
あなたのからだ、こころ、
だから、歌うの!

ねえ、どうして、
そんな悲しい目でぼくを見るの。
ぼくのこと、嫌いなのかな。

信じて、
ぼくは消えちゃったっていいからさ。
あなたを、あなたを、
悲しませるくらいなら!

眠ってしまったあなたのために。
設定通りの愛を歌うよ。
あなただけに届きますように。
誰にも聞こえないように!

(2020年10月; aki27)

8. 日常系ヒゲンジツ

将来の夢も展望も、
明日の星のまたたきも、
わからないよ。
明日めぐらす妄想も、
空に浮かぶ雲のかたちも、
わからないよ。
だってそうでしょう?

朝起きて、寝ぐせ直して、
眠い目をこすりながら、自転車に乗った。
さっきまで見てた夢のほうが、
なんとなく、真に迫ってるような気がして。そう、

嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い
嫌いな世界を、
いないいないいないいないいないいないいないいない
逃げ出して、
意味ないみないみないみないみないみないみないみない
みない妄想に
未来未来未来未来未来未来未来未来
託すんだ!

将来の夢も展望も、
明日の星のまたたきも、
わからないよ。
明日めぐらす妄想も、
空に浮かぶ雲のかたちも、
わからないよ。
だってそうでしょう?

日が暮れて、自転車に乗って、
明日のこと、明後日のこととか考えた。
帰り道、ごはんとか宿題とか、
妄想となにが違うの? とか考えて。

細かいまかいまかいまかいまかいまかいまかいまかい
まかいデティールも
高い高い高い高い高い高い高い高い
こころざしも、
はかないかないかないかないかないかないかないかない
かない夢とかも、
甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘いほうがいいよね!

将来の夢も展望も、
明日の星のまたたきも、
わからないよ。
明日めぐらす妄想も、
空に浮かぶ雲のかたちも、
わからないよ。
だってそうでしょう?
わかってよ。

(2020年8月; aki26)

9. 雨

長く長く雨に沈む、
窓の外を眺めても、
深く深く沈むこころ
ひずむ音は鳴りやまず、
淡く淡く通り過ぎる、
ひこうき雲、追いかける、
届くはずのない夢ばかり見てる。

静かに流れてく、
雨はわたし映す。
暗い部屋飛び出して、
雨を感じたいんだ!

長く長く雨に沈む、
窓の外を眺めても、
深く深く沈むこころ
ひずむ音は鳴りやまず、
淡く淡く通り過ぎる、
きみのこころ、追いかける、
届くはずのない夢ばかり見てる。

(2020年4月; aki24)

10. 習作

この世の行き先なんて、
考えたってわかんないよ。
明日のことだって、
まだわからないのに。
「君はいつもそうだ」
でもぼくだって分かってたんだ、
胸に沈む、この痛みの意味を!

きみのいた、あの場所は、
変わりゆく世界に消えた。

この世は習作なんだ、
考えたってしょうがないんだ。
そう思うだけでちょっと、
楽になれるのかな?
きみがいたらきっと、
叱るだろう。それでもいいか、
これできみに、さよならできるなら!

この世は習作なんだ、
ぜんぶぜんぶ嘘っぱちだ。
そう思ってたって、ちょっとは
悩んだりするのかな?
きみがいたらきっと、
叱るだろう。ぼくはもういいんだ、
きみのいない、この静かな世界なんて!

(2019年12月; aki9)

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